
訪問介護事業(ホームヘルプ)とは
訪問介護事業(ホームヘルプ)とは、訪問介護員(ホームヘルパー)が利用者宅を訪問し、食事・排泄・入浴などの身体介助や、掃除・ゴミ出し・買い物などの代行といった日常の生活援助を行うことです。通院などを目的とした乗車・移送・降車の介助サービスを提供する事業所や、入浴、夜間に特化して対応する事業所もあります。
訪問介護事業(ホームヘルプ)で提供できるサービス
訪問介護事業(ホームヘルプ)が提供できるサービスには、「身体介助」と「生活援助」の2種類に分けられます。
「身体介護」サービスは、食事、入浴、排泄時の介助のほか、着替えやベッドから車イスに移動する際の介助など、直接体に触れて行う介護です。
「生活援助」サービスは、掃除、洗濯、食事の準備、買い物代行、必要であれば、爪切りや血圧測定など、利用者が日常生活を営むのに必要な行為への援助です。
ただし、サービスは利用者本人へのみ提供します。
また、利用者本人が生活を送るうえで日常的に必要ではない行為は行いません。例えば、窓ふきや家具の移動、本人以外の家族分の食事の用意、といったことは行いません。
また、インスリンの注射、点滴やたんの吸引のような医療行為はできません。※
※定められた研修過程を修了するといった一定条件をホームヘルパーが満たせば、「たんの吸引」などを行うことが可能です。
開業に必要な資格や条件
では実際に、事業者としてサービスを提供する際に必要な4つの基準を紹介します。
■法人であること
株式会社や合同会社、NPO法人、社会福祉法人といった「法人」を設立して法人格を得ることが必須です。法人格でない場合は、まず会社設立手続きを行います。
また、すでに法人格を持つ場合は、定款の事業目的に「通所リハビリテーション事業」という文言があることを確認します。もし記載がない場合は、定款の事業目的を追記する必要があります。
■人員に関する基準
【管理者】
配置基準:専従常勤1名以上
資格要件:なし
【サービス提供責任者】
配置基準:1名以上。管理者との兼務可
資格要件:次のように身体介護が可能な資格。介護福祉士、介護職員基礎研修課程修了者、看護師または准看護師、ヘルパー1級課程修了者など。
【訪問介護員(ホームヘルパー)】
配置基準:常勤換算2.5人以上
資格要件:次のような身体介護が可能な資格。介護福祉士、介護職員基礎研修課程修了者、看護師または准看護師、ヘルパー1級課程修了者、ヘルパー2級課程修了者など。
■設備に関する基準
・事務室
広さの規定はありませんが、事務をとる人数分の机やイスなどを設置できるスペースが必要なことと、利用者に関する書類を保管するための鍵付きキャビネットを設置する必要があります。
・相談室
利用者やその家族が相談をするための部屋。相談者のプライバシー保護のため、パーティション等で事務室と相談室が区分されていることが必要です。
・手洗い設備
衛生に関する設備として手洗いができる洗面所が必要です。共有トイレしかない場合は、感染予防に必要な手洗い設備を設置し、許可を取る必要があります。
・専用の機器、および器具
テーブルや机・いす、電話とFAX、パソコンとプリンター、書類棚、鍵つき書庫、事業所専用の自動車など。
・その他に必要な設備
液体石鹸、消毒液、タオルやペーパータオルなど。
■運営に関する基準
・利用申込者に対するサービスの提供内容、手続の説明に同意を得ていること。
・サービス提供拒否の禁止。
・被保険者資格、要介護認定の有無および要介護認定の有効期間の確認。
・サービス担当者会議等を通じた心身の状況等の把握。
・サービスの提供の記録。
・利用料などの受領。
・訪問介護計画の作成および利用者の同意を得ていること。
・利用者に関する市町村への通知。
・利用者の病状の急変などの緊急時における主治医への連絡などの対応。
・事業運営についての重要事項に関する規程(運営規定)の制定
・介護等の総合的な提供。
・訪問介護員等の健康状態の管理、設備、備品等についての衛生管理。
・苦情を受け付け窓口設置など、苦情処理に必要な措置および記録。
・事故発生時における、市町村、利用者の家族、居宅介護支援者等への連絡など必要な措置及び記録。
など
施設開業時にかかる費用
上記をはじめとする基準を満たすことができると、開業の手続きが可能となります。訪問介護(ホームヘルプ)事業所開業時に、どういった費用がかかるのかをまとめました。
■法人設立費用
株式会社、合同会社など、法人のスタイルによって設立費用が異なります。
一方、NPO法人の場合は、ほとんど費用がかかりません。ただし、株式会社や合同会社と比べて認可されるまでに3カ月半~4カ月程度の時間を要しますので、開業する時期から逆算して認可申請をする計画性が必要です。
■人件費
自治体から指定を受けるには、先述した人員を確保している必要があるため、利用者の有無に関わらず人件費がかかります。
■施設費
事務所の広さは最低でも、事務室として約六畳と相談室として約四畳の広さが必要でしょう。それに見合う事務所賃料と、物件を取得する際にかかる敷金や礼金のことも考えておきましょう。
自宅で開業する場合は、物件取得金はかかりませんが、手洗い場など改装が必要となれば、その改装費を見積もる必要があります。
■事務所備品購入費
電話機・FAX機(一体型でも可)、パソコン、プリンター、書類保管用の鍵付き書棚・書庫、事務スペース用の机といす、相談スペース用の机といす、パーティションなどのついたてなど。
■車両費
送迎に適した車両のレンタル費、ガソリン費、税金、保険料などが必要です。
■国からの融資、助成金が受けられる
自己資金ですべての開業資金をまかなうことが無理な場合、日本政策金融公庫や民間の金融機関から融資を受けることができます。厚生労働省や経済産業省も起業等の開業資金の手助けをしています。
(助成金)
介護基盤人材確保助成金…介護関連事業主が新サービスの提供などの理由で特定労働者を雇い入れた場合、対象労働者一人あたり上限70万円まで助成されます。
- 介護雇用管理助成金…就業規則や賃金規定の作成、採用パンフレットの作成、求人サイトや新聞の等で従業員を募集した場合、実際にかかった費用の半額、上限100万円まで助成されます。
- 介護労働環境向上奨励金…介護労働者が働きやすい環境を整える介護サービス事業主に助成されます。
- 特定求職者雇用開発助成金…60~64歳の高年齢者や母子家庭の母親、障害者など、就職が特に困難な人を継続的に雇用した場合に支給されます。
これらの助成金は、会社設立や従業員を雇用してから6ヶ月~10ヶ月後に支給されます。
(融資)
- 日本政策金融公庫…介護事業者が利用できる日本政策金融公庫が扱う融資は次のようなものがあります。
- 新創業融資制度(無担保、無保証)…融資限度額は3000万円(うち運転資金1500万円)です。創業の要件・雇用創出等の要件・自己資金要件のすべてに該当者が対象です。
- 新規開業資金…上限7200万円(うち運転資金は4800万円以内) 雇用の創出を伴う事業を始める場合や現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める場合など、一定の要件に該当する人が対象です。
- 女性、若者/シニア起業家資金…上限7200万円(うち運転資金は4800万円以内) 女性、30才未満、55歳以上の方が融資を受けられる対象です。
ほかにも、融資上限額は日本制作金融公庫よりも少額なものの、都道府県や市町村などの自治体が手掛けている公的融資もあります。
訪問介護(ホームヘルプ)事業を開業する特徴やメリット
■開業のハードルが低い
訪問介護(ホームヘルプ)は、開業資金や人材確保面でのハードルが低いというメリットがあります。また、こちらから出向いてサービスするので、利用者が増えても施設の増築などのコストが掛かりません。
利用者に合わせて訪問介護員(ホームヘルパー)を増員すれば対応できるので、いくらでも売上げが伸ばせる可能性があるのです。増員分の人件費はかかりますが、利用者が増えた分の売上げが伸びるからです。
■人員確保が比較的容易
必要人員にある訪問介護員(ホームヘルパー)の必要資格は、ヘルパー2級以上です。ヘルパー2級といえば、社会福祉協議会の養成講座や専門学校の資格取得講座で一定のカリキュラム(130時間の研修)を修めれば取得可能です(約4カ月程度)。
試験や実務経験が不要なため取得しやすく資格取得者も多いため、人員の確保はさほど難しくはないでしょう。
■利用者確保に地道な営業努力が必要
施設で提供するサービスでないだけに利用者から存在がわかりにくいため、その分の地道な営業努力が必要です。さらに、介護ブームによる介護事業者が多く、利用者の奪い合いが起きていますから、一層の努力が必要となるでしょう。
■労働環境の向上がカギ
訪問介護員(ホームヘルパー)は肉体的・精神的にきつく、それに比べて報酬は決して高くないため、一年未満で辞めていく職員が多いのが現状です。労働に対する対価が適切となるよう見直し、介護現場から離職者を減らしていく努力も必要です。
まとめ
いかがでしたか?
介護訪問(ホームヘルプ)は、利用者が人間らしい生活を営めるよう、利用者のもとに出向き行うサービスという、介護の原点のようなものです。それでいて開業するハードルが比較的低く、乗り出しやすい事業です。ぜひ開業をご検討ください。